サンウォーダ電子(欣旺达)詳細調査レポート:技術的強みと工場概要(所在地・生産能力・設備・計画)

高速充電技術
サンウォーダの最大の強みは超高速充電技術となる
同社は2017年にHEV(ハイブリッド車)用バッテリー開発に参入し、過酷な要件(長寿命と高出力充電)に挑む中で高速充電技術を蓄積した
その成果が世界初の6C急速充電電池「Flash Charge Battery」で、Xpeng G9などに採用され量産されています
2023年には第3世代に進化し、ピーク充電レート6C・低温下90%エネルギー保持など業界トップ水準を誇ります
高速充電は車載のみならず、産業・蓄電用途でも強みとなっており、大容量セルのCTP/CTB統合設計や冷却技術と組み合わせて充放電効率向上を図っています

エネルギー密度と次世代電池
エネルギー密度の追求でも先端を走っている
現行の長航続LFP電池で体積450Wh/Lを実現したほか、リチウム金属電池では500Wh/kg超を目指し2025年にBサンプル(試作検証)予定、全固体電池は2027年にBサンプル予定とロードマップを公表しています
また正極・電解質の新材料開発や大型円筒セルの構造最適化(容積効率15%向上)など、材料・構造両面で革新を進めている
これら研究開発により、2022年にはBenchmark社の「Tier 1 車載電池サプライヤー」に国内4番手として認定され、国際品質・技術力が評価されています

安全・信頼性
「安全性の確保は産業発展の基盤」と位置付け、セルからシステムまで多層の安全設計を重視しています
具体的には難燃・難刺破のセル構造設計や、弱点分離型の次世代CTP技術(サードジェネレーションCTP)開発により、単一セル異常時の被害拡大防止を図っている
またIoT・ブロックチェーン技術を活用したバッテリーパスポート(電池の全ライフサイクル追跡)に国内で先駆けて参画し、品質データやカーボンフットプリントの透明化にも取り組んでいます

研究開発投資
2024年の研究開発費は約333億元と売上高の約6%を投じ、前年から20%以上増加しました
深圳に本社R&D拠点を置くほか、中国各地と日本(京都)・アメリカ(シリコンバレー)など海外に研究拠点・技術提携先を有し、材料から製造プロセス、BMSソフトウェアまで約3,000人規模の技術者が開発を担っている(2023年報告書より)
特許も多数出願しており、特に高速充電・低温電池・CTP構造でコア特許を保持しています
なお近年LGエナジーソリューションとの特許係争も一部発生しましたが、国際市場での知財リスク対応も進めています

工場概要(所在地・生産能力・設備・計画)
中国国内拠点
本社・主要工場は深圳に位置し、広東省惠州をはじめ中国各地に生産拠点を展開している
2021年以降、大規模な工場建設計画を相次ぎ発表しており、江西省南昌市に年産30GWhの電池工場(総投資200億元)、湖北省宜昌市に30GWh工場(120億元)、山東省棗荘市に30GWh工場(200億元)などがあります
四川省什邡市でも20GWh規模の計画を打ち出しました
2022年9月には浙江省義烏市と協定を結び、50GWh規模の生産基地に約213億元を投資予定で計画が全て完成すれば、総生産能力は数百GWh規模に達する見込みです
もっとも市場環境に応じ計画修正も行っており、例えば2022年発表の広東省珠海の30GWh工場(120億元)は2025年に契約解除されました
このように需要動向に合わせ投資リスク管理もしつつ、生産能力の拡充を図っています

製造技術
「極限のインテリジェント製造」を掲げ、最新設備を導入しています
多数のGigafactoryで全自動生産ライン・AI検査システムを備え、不良率低減と生産効率向上に努めています
例えば義烏工場では高度自動化された電池セル製造ラインを採用し、一貫生産時間を業界平均比30%短縮するとされています
またCTP/CTB構造一体化のラインや大型円筒セル専用ラインも順次導入中となっている

海外工場
国際展開として、ハンガリー(ニーレジハーザ)に初の海外EV電池セル工場を建設中で、2026年稼働開始予定です
投資額は第1期で約19.6億元、敷地面積60ヘクタール規模とされ、ヨーロッパの自動車メーカー向け供給拠点となります
タイでも東部経済回廊(チョンブリ県)に1,000人規模のEV電池工場を新設する計画で、2025年に着工しASEAN初の電池セル生産を目指しています
投資額は約10億ドル(約1400億円)で、セル製造から研究開発まで担う総合拠点となっている他、モロッコでもEV電池生産拠点の建設を進めており、現地政府との協力で北アフリカ市場や欧州向け供給基地とする計画です(投資額約3億ドル規模)
インドにはスマートフォン電池工場を展開済みであり、ベトナムでもハノイ近郊にスマホ・PC用リチウム電池工場(Liweiプロジェクト、投資20億元)を建設中です
ベトナム工場は同社初の海外消費電池拠点で、2024年着工・2025年稼働を目指しています

将来計画
以上のように積極的な設備投資が続く一方、市場動向に応じ不要プロジェクトは停止する「選択と集中」も行っています
同社は生産拠点をグローバルに分散することで顧客への迅速な供給とコスト競争力強化を図っており、2030年頃までに国内外合計で500GWh級の年間生産能力を目標としていると報じられています(社内計画ベース)
また各工場では欧州の電池規則に対応すべくカーボンフットプリント管理やリサイクル網構築などESG面の設備投資も進めています