サンウォーダ電子(欣旺达)詳細調査レポート:国際展開、競合比較など

サンウォーダ電子欣旺达 調査レポート
国際展開(海外顧客・工場・拠点・輸出・提携)
海外拠点
本社のある中国深圳以外に、インド、ベトナム、ハンガリー、モロッコに生産拠点を設立済みまたは建設中で、さらに米国、フランス、ドイツ、イスラエル、韓国、日本など先進国にも支社・営業所を構えている
これは世界の自動車・電子メーカーに近接してサービスを提供する戦略の一環で、特にハンガリー工場は欧州大手、自動車産業ハブのタイ工場はASEAN地域、日本支社は日系自動車メーカー向け対応と位置付けられます
海外顧客
創業当初よりルノー・日産とHEV用電池開発で提携するなど国際OEMとの協業実績がある
現在ではフォルクスワーゲン(VW)やボルボ、現代自動車グループなど海外自動車メーカーへの供給体制も整備しています
VWとは中国市場向けPHEV電池で協力し、ボルボとはEV用バッテリーの評価を進めています(報道)
またAppleをはじめ海外IT大手にもスマホ・ノートPC用電池を供給しグローバル市場で高い評価を得ており、ESS分野では米国や欧州の再生エネ事業者向けに大規模蓄電システムを輸出しています
輸出状況
収益の約半分は海外向け(間接輸出含む)と推定され、特にスマホ・PC電池は完成品メーカーの海外生産に伴い直接海外工場へ出荷されています
自動車電池は主に中国国内市場向けでしたが、近年欧州・東南アジア向けの納入が始まっている
2024年には同社製電池を搭載したEVバスが欧州市場に投入されるなど、本格輸出も始まっています
戦略提携
国際協調に積極的で、**Global Battery Alliance(GBA)に中国勢として加盟し、持続可能な電池バリューチェーン構築にコミットしています
また日本のホンダ系やトヨタ系部品メーカーと次世代電池材料で共同研究契約を結ぶなど、技術提携にも前向きです。加えて、2020年には日産と次世代e-POWER用電池の共同開発で合意し、生産システムを含めた協業を進めています
さらに2022年にはEV電池部門に国家グリーン発展基金などから1,170百万ドルの出資を受け、中国政府・産業界と連携して海外展開を図っています
総じて、海外拠点拡充と有力企業との提携により「世界的な電池サプライヤー」**への飛躍を目指す戦略です
競合比較(CATL、BYD、EVE、CALB、Gotionなどとの比較)
市場シェア
サンウォーダのEV用電池世界シェアは約2.1%(2024年実績)で、CATL(約39%)やBYD(約17%)に次ぐ世界10位となっている
中国国内シェアでも2024年初頭で約1.6%を占め、第9位につけています
もっとも成長率はトップクラスで、2024年の世界出荷量は前年から+60%と、競合のEVE (+39%) やGotion (+20%台) を大きく上回りました
この高成長により、2024年9月には中国月間シェアで5位(CATL、BYD、CALB、中創新航〈CALB〉、Gotionに次ぐ)に浮上するなど存在感を増しています
製品・技術面
CATLやBYDが幅広い製品ラインナップと巨大生産能力で市場を席巻する中、サンウォーダは差別化技術で競争しています
高速充電分野ではCATLの「神行電池」(4C充電対応)やBYDの「刀片電池」(高安全LFP)に対抗し、6C超急速充電や低温性能で優位性をアピール
エネルギー密度ではCATLの「キリン電池」(CTP高集積度設計)に対し、独自のCTP2.0技術や大型円筒セルで追随しています
また材料面ではGotion High-Tech(国軒高科)やSVOLT(蜂巢能源)がコバルトフリー電池などを進める中、サンウォーダもナトリウムイオンや全固体電池など先端分野で研究開発を行い技術力を蓄積しています
顧客・市場ポジション
CATL・BYDがトヨタ・VWなど多数の完成車大手と直接契約する「一次サプライヤー」であるのに対し、サンウォーダは多くの場合二次サプライヤー(予備的供給者)として参入し、特定モデルや一部地域向けを受注する戦略をとっている
これはCALBやEVEなど他の新興メーカーも採用する戦略ですが、サンウォーダは特にLi AutoやNIOなど新興EVメーカーとの関係構築に成功しています
一方でBYDは自社でEV生産も行う異色の垂直統合企業であり、競合というより市場全体の拡大を牽引する存在です。サンウォーダはBYDとも一部で協業(BYDの車載用二次電池調達)するケースもあり、市場シェア争いだけでなく協調も見られます
財務・生産能力
生産能力面ではCATLが2025年目標で800GWh超、BYDも600GWh超とされる中、サンウォーダは数百GWh規模に留まります
しかし前述のように財務の安定性と慎重な投資で過剰投資による経営悪化を回避しており、むしろ急拡大で債務超過に陥った先発組(例: オプティマナノの破綻)を横目に着実な成長を遂げています
実際、同社の負債比率は競合の多くより低く、利益率も改善傾向にあります。この堅実性が評価され、車載電池分野でBenchmarkによるTier1認定(前述)を得ており、国際OEMからの信頼性という点で他の新興メーカーより一歩先んじています
2025年初頭における中国EV電池市場シェア(Sunwodaは約1.6%で9位)
CATLとBYDで市場の2/3近くを占有する
その他(特許・研究開発戦略・ESG方針・IPO・資金調達動向など)
研究開発戦略
高速充電・固体電池・ナトリウム電池といった将来技術への投資を拡大している
特に全固体化では、高安定電解質膜や複合電極材料の開発プロジェクトを立ち上げ、2026年までに1Whあたりコスト2元(約40円)のポリマー系全固体電池実用化を目指す計画です
また航空用途電池(目標エネルギー密度400Wh/kg)も開発中で、商業航空機・ドローン市場への参入も視野に入れています
知的財産面では年間数百件の特許を出願し、国際特許も増やしています(2024年は約500件出願)。一方でLGエナジーによる欧州での特許訴訟など課題もあり、自社特許ポートフォリオの強化とクロスライセンス交渉にも注力しています
ESG方針
環境・社会・ガバナンスへの取り組みでは、2050年ネットゼロ(炭素中和)を宣言し、製品ライフサイクル全体でのCO2削減に取り組んでいます
2021年にはエネルギー効率改善に1127万元を投じ、10%のエネルギー削減を達成しました
またバッテリーリサイクルにも参入し、使用済みEV電池の回収・二次利用ネットワークを構築しています
EUの新電池規則に対応すべくカーボンフットプリント算定やリサイクル材使用比率向上を進め、Battery Passport(デジタル台帳)実証プロジェクトにも国内企業として参加しています
社会貢献では深圳に慈善基金を設立し、教育支援や災害救助に寄与しています
ガバナンス面では取締役会に社外取締役を複数任命し、内部統制とコンプライアンス体制を強化しています
IPO・資金調達
サンウォーダ電子は2011年に深圳証券取引所(創業板)に上場済みで、以降増資や社債発行で設備投資資金を調達してきました
特に2022年にはEV電池子会社(欣旺达電動汽車電池)のシリーズA増資として約80億元を調達し、国家系ファンドの出資を受けました
その後2022年11月には約3.1億CHF(約4.4億ドル)相当のグローバル預託証券(GDR)をスイス市場で発行し、海外資本も呼び込んでいる
これらによりEV電池事業の資本力を強化し、将来的な分社IPO準備も進めていると報じられます(2023年10月に中信証券を起用し科創板上場準備との報道)
また2021年には前述のように約39億元の第三者割当増資を実施し、設備拡張資金に充当しました
今後も需要拡大に応じた増資やグリーンボンド発行等が予想されますが、現時点で財務は安定しており自己資本比率も良好です