中国の主要リチウムイオン電池メーカー 10. 孚能科技 (Farasis Energy)
市場ポジション・概要: 孚能科技(Farasis Energy)は、2009年に中国江西省赣州市で設立された電池メーカーです
(創業者は元々米国で2002年にFarasis社を創業し、中国に本格展開しました)
高性能な車載用リチウムイオン電池を得意とし、一時は中国電池メーカーのトップ5に入っていました
2020年にはドイツのダイムラー(現メルセデス・ベンツ)から戦略出資を受けて話題となり、欧州市場進出の足掛かりを得ました
世界市場シェアは2022年時点で約1.5%で世界10位でしたが、その後は相対的に順位を下げています
中国国内でも2024年時点でシェア1~2%程度ながら、依然トップクラスの自動車メーカーと取引する実力派企業です
主な製品・用途: 孚能科技の主力製品は三元系(NCM)リチウムイオン電池のラミネート(パウチ)型セルです
エネルギー密度の高い大型パウチセルを製造し、高級EVやプラグインハイブリッド車向けに供給してきました
特にニッケル含有量の高いNCM811電池など高性能セルで定評があります
安全性向上のため独自の電池パック制御技術も開発しています
またリン酸鉄リチウム(LFP)電池の量産も開始しており、中国国内のバスや商用車向けに提供しています
用途としては、乗用車EVが中心で、中でも欧州系メーカーの高級EVや中国合資メーカーのEVに採用されるケースが多いです
近年はエネルギー貯蔵向け大型電池の市場にも参入し始めています。 主な顧客・提携先: 孚能科技の最大のパートナーはメルセデス・ベンツです
2018年に両社は大型供給契約を締結し、メルセデスは孚能に出資も行いました
その結果、メルセデスの中国製EV(北京ベンツのEQシリーズなど)の約半数に孚能の電池が搭載されているとされています
実際、韓国で2024年に起きたメルセデスEV火災事故では、搭載電池が孚能製NCM電池だったことが報告されました
メルセデス以外では、北京汽車(BAIC)とは電池の合弁会社を設立し、BAICのEVに供給しています。また吉利汽車や広汽新能源などの一部モデルにも採用例があります。欧州では、孚能はドイツ東部に電池工場建設計画を進めており(当初2022年稼働予定が遅延)、将来的にメルセデス欧州車への供給も見込まれます。こうした大手OEMとの強固な関係により、2023年には孚能の売上の約45%(74億元)がメルセデスからの受注によるものとなっています
最近の動向: 孚能科技は市場環境の変化に直面しています。近年CATLやBYDといった競合の台頭でシェア争いが激化し、同社の市場順位はやや低下傾向にあります
2023年には韓国でのEV火災事故報道で安全性への懸念も浮上し、ブランドイメージへの影響も懸念されています
その一方で、同社は技術開発を続けており、シリコン系負極を用いた高エネルギー密度電池や全固体電池の研究にも取り組んでいます
生産面ではトルコのGemlik工場が2023年に稼働を開始し、8GWh規模で欧州向け電池生産を開始しました
また米国の電池スタートアップへの出資や提携も模索しています。財務面では上場企業として資金調達を行いながら、2023年も売上増加(約400億元)を達成しました
孚能科技はメルセデスという大口顧客を抱える強みを活かしつつ、製品の信頼性向上と多角的な顧客基盤の確保に注力しています