SVOLT Energy Technology(蜂巣能源)詳細調査レポート: 製品概要
SVOLTは多様な電池製品ラインナップを展開しており、リチウムイオン二次電池の主要な化学系を網羅しています。同社の製品カテゴリと技術的特徴は以下の通りです
リン酸鉄リチウム(LFP)電池
コストと安全性に優れるLFP電池を量産しています
特に「短刀電池」と呼ばれる独自設計のプリズマティック電池セルを採用し、高い体積効率と安全性を実現しています
短刀セルは長さを抑えた角型セルで、パック内に高密度に配置できるため、従来よりもエネルギー密度を高めることが可能
2022年12月に発表された**「龍鱗甲電池」システムでは、LFP短刀セルを用いることで電池パックの体積利用率を76%まで高め、LFP搭載EVとして航続800km超を達成した
これはLFP電池の航続記録を更新する画期的成果で、短刀電池は安全性試験でも優秀な結果を示し、満充電状態での釘刺し試験でも発火・発煙せず、刺穿部位の温度上昇は30~35℃に留まるという極めて高い安全性を実証しています
LFP短刀セルの代表シリーズ「L600」は5Cの超高速充電(15分程度で80%充電)に対応し、800V高電圧アーキテクチャのEVにも適合します
同社のLFP電池は主に**電動乗用車(EV)やエネルギー貯蔵システム(ESS)向けに提供されており、タイ市場向けのグレートウォール「ORA Good Cat」EVでは60kWhのLFPパックで航続500kmを実現して
三元系リチウム電池(NCM/NCA)
高エネルギー密度が要求される分野にはニッケル・コバルト・マンガン系(NCM)電池を供給しています
蜂巢能源は特に高ニッケル・低コバルト化に注力しており、コバルトフリー(無コバルト)NMX電池の量産を2021年に世界でいち早く開始しました
NMXはコバルトを含まない新陰極材料で、資源リスクとコスト低減を図りつつニッケル系の高い容量特性を維持しています
エネルギー密度に関して明らかにされている数値としては、同社の次世代高エネルギー密度電池パックで重量エネルギー密度220Wh/kg、容積エネルギー密度503Wh/Lを達成する見込みで、2024年に量産予定とされている
実際、三元系セル搭載の龍鱗甲電池ではパック単位で航続1000km超を可能にしており、4C急速充電にも対応します
これらの高性能NCM電池は主に長航続距離EVや高級EV、およびレンジエクステンダー型EV(EREV/PHEV)の駆動用電池として採用されています
例えば、理想汽車の新型SUV「L7 Air」や岚図(Voyah)「FREE」などのレンジエクステンダー車は蜂巢能源製の三元系電池を搭載し、300~400kmのEVモード航続を実現しています
高マンガン系・新規材料電池
蜂巢能源は次世代材料の開発にも積極的です
2022年には「高マンガン鉄ニッケル電池」を発表しました
これはリン酸鉄リチウムにマンガンとニッケル元素を組み合わせた独自の正極を用いた電池で、LFPと三元系の中間に位置する特性を持ちます
高マンガン鉄ニッケル電池パックは、同容量の標準LFPパックに比べて航続+100km、低温性能2倍向上を達成し、同等性能の三元パックと比べコストを9.5%低減できると報じられています
エネルギー密度はパック換算で約220Wh/kgに達し(前述)、コスト・性能両面でバランスの取れた新たなソリューションとして2024年より量産予定です
この他にもシリコン系負極(ナノネットシリコン)の採用による高容量化や、電池リサイクル技術にも取り組んでおり(2022年にバッテリリサイクル事業に正式参入)、材料循環まで含めた総合的な技術開発戦略を取っています
安全・構造技術
蜂巢能源の製品は安全性と構造上の革新にも特徴があります
同社の電池パック設計「龍鱗甲(ドラゴンスケール)電池」は、セルの「熱-電気分離」構造を世界で初めて導入しました
通常の電池ではセルのガス排出弁と集電部が同一方向にあり、あるセルが熱暴走を起こすと高温ガスが隣接セルの回路を直撃し二次被害を誘発しがちです
龍鱗甲電池ではセル底部に防爆弁を設けてガスを下方に排出し、高低圧回路とは隔離することで熱暴走時でも他セルへの延焼・破損を防ぐ構造となっています
さらに、セル底部のデッドスペースを排除する設計によりパックの空間効率を大幅に高めています
その結果、前述のようにLFP版で800km超、NCM版で1000km超の長距離化と安全性両立を達成しました
また同システムは車体との一体化(CTC: Cell to Chassis)にも適応し、不要な構造部品を削減することで重量とコストを下げています
一方、BYDの「ブレード電池」など競合技術とも互換性を持たせるため、龍鱗甲電池は300mmから600mmの様々なセルサイズに対応でき、LFP・高マンガン・三元など複数のケミストリーにも適合する柔軟性を備えています
加えて、蜂巢能源独自の高速「飛叠 (Flying Stack)」叠片技術3.0により、セルの製造プロセスを高速化しつつ均一性を高めています
この高速スタッキング工法は0.125秒/枚という業界トップクラスの速度で電極を積層するもので、生産性向上とセル性能両立に寄与しています
総じて、蜂巢能源の製品群はEV乗用車(長距離BEV・ハイブリッド車)、商用車、定置型エネルギー貯蔵、そしてポータブル電源まで幅広い用途をカバーしており、各用途に最適化した電池セル・モジュール・パックソリューションを提供しています