BYD(比亜迪股份有限公司)の製品概要(電池製品技術)

バッテリーの種類
BYDは垂直統合型メーカーとして、自社開発の各種二次電池を製造・搭載している
主力はリン酸鉄リチウム(LFP)電池であり、独自形状の「ブレードバッテリー」として全乗用EVモデルに採用されている
また一部にニッケル・コバルト・マンガン系(NCM系)リチウム電池も併産しているが、その比率は小さい
さらにナトリウムイオン電池の商用化にも積極的で、2024年には初のナトリウム電池工場(年産30GWh規模)建設に着手した
将来技術としては全固体電池(オールソリッドステート電池)の研究開発を進めており、2024年に60Ahセルの試作を完了、2027年頃から実証運用、2030年頃の量産を計画している

LFPブレードバッテリー:
BYDが開発した薄板状のLFP電池セルをモジュールレスでパック化したもので、高い安全性と長寿命が特徴
エネルギー密度はNCM系に比べ重量あたりでは劣るものの、セルを「刃状」に長くし隙間なく配置することでパック容積効率を高めている
標準的なLFP電池のエネルギー密度はパックあたり140~150Wh/kg程度とされるが、ブレード設計により600km走行も可能な実用容量を確保している
充電性能については、現行モデルで約1C(1時間程度で満充電)の急速充電に対応し、2025年には新開発の「スーパーeプラットフォーム」で10C放電対応ブレード電池を発表した
寿命も非常に長く、ブレードバッテリーは3,000回以上の充放電(走行距離にして約120万km相当)の性能を持つとされる
最大の特長である安全性は業界トップクラスで、釘でセルを貫通させる過酷な試験でも発煙・発火せず表面温度30~60℃に留まることが実証されている
このように熱暴走しにくい安全設計により、各国でEV火災への不安払拭にも貢献している

NCM系リチウム電池:
三元系(ニッケル・コバルト・マンガン)電池もBYDは製造ノウハウを持ち、主に初期のEVや電子機器向けに採用してきた
NCM電池は高エネルギー密度(セルあたり200Wh/kg超も実現可能)で航続距離面に優れる一方、レアメタル材料コストの高さや発火リスクの管理が課題となる
BYDでは自社EVの大半を安全性・低コスト重視のLFPへ転換したため、現在NCM電池の生産比率は限定的である
それでも高級車種や特定用途では引き続きNCMを使用し、LGエナジーソリューションやパナソニックなど他社が強みとする高容量電池とも競合しうる体制を維持している

ナトリウムイオン電池:
リチウム資源に代わる新興電池としてナトリウムイオン電池の実用化にBYDは注力している
ナトリウムは資源豊富で安価なため、電池コスト大幅低減が見込まれる一方、エネルギー密度はリチウム系より低い傾向にある
BYDは2022年にナトリウム電池企業との合弁を設立し、2024年1月に江蘇省徐州で年30GWh規模のナトリウム電池工場を​竣工
併せて世界初の高性能ナトリウム蓄電システム「MC Cube-SIB ESS」を発表し、長尺ブレード型セルを採用した大規模蓄電設備を商品化している
同システムは2.3MWhの容量を持ち、1,200V級の高電圧に対応する
ナトリウム電池は高出力充放電性能・長寿命・安全性にも優れるとされ、まず低価格小型EVや二輪車、定置型ストレージへの展開が期待されている

全固体電池:
次世代の全固固体電池は中国メーカーの中でも実用化ロードマップを明確に示している
液体電解質を用いない全固体電池は、エネルギー密度の飛躍的向上や不燃性による安全性向上が見込まれるが、コストや量産技術が課題である
BYDは社内で材料技術からセル製造プロセスまで研究開発を進め、2024年に60Ah級のオールソリッド電池セルを試作する予定

同社CTOは「2027年に高級車から実証的に搭載を開始し、2030年前後に大規模量産へ移行する」計画を表明しており、まずは高級モデルへの限定適用、その後普及車種への拡大を見据える
なお中国ではNIOが150kWhの半固体電池(エネルギー密度360Wh/kg)を発売開始するなど競争が激化しており、BYDも固体電池技術で遅れを取らぬよう開発を加速している

■ 主要技術指標:
上記の電池技術におけるエネルギー密度・充電速度・寿命・安全性の概略を比較すると以下のようになる

エネルギー密度:
LFPブレード電池
材料単体の比エネルギーでNCMに劣るが、構造工夫で実用車両の航続距離を確保している
NCM系
エネルギー密度300Wh/kg超も視野に入る一方、ナトリウムイオン電池はリチウム系の約2/3程度の密度とされる
全固体電池
将来的に500Wh/kg級の高密度も研究されている

充電速度:
現行BYD車の多くは約0.5~1C(1~2時間で充電)の実用性能だが、新開発の10C急速充電電池では理論上6分でフル充電が可能となり世界最高水準である
ナトリウム電池も高い充放電レート性能を持つとされ、低気温環境での充電特性にも優位性が報告されている

寿命(サイクル回数):
ブレードLFPは3,000サイクル以上とEV用として極めて長寿命で、ナトリウム電池も繰返し特性が良好とされる
NCM系は一般に1,000~2,000サイクル程度で劣化が進みやすいため、BYDは長期保証が必要なバス・業務用途にもLFPを好んで用いている
全固体電池は​電解液が無いため劣化要因が少なく長寿命化が期待される

安全性:
LFPブレード電池の安全性は突出しており、セル発熱時も熱暴走しにくい
NCM系は高エネルギーゆえに温度管理が重要で、BYDは電池管理システム(BMS)や冷却設計で安全性を確保している
ナトリウム電池は素材の安定性から火災リスクが低いと謳われ、全固体電池​のため本質的に安全性が高い