BYD(比亜迪股份有限公司)の経営(経営方針と戦略)
■ 経営方針・戦略
創業者の王伝福氏が掲げる経営理念は社名の由来でもある「Build Your Dreams(夢を追い求めよ)」に象徴される
具体的な経営戦略の柱は以下の通りである
垂直統合とコスト競争力
王氏は創業時から垂直統合を重視しており、「主要部品の内製によるコスト低減こそ競争優位の源泉」と考えている
実際BYDは電池セルのみならず半導体(IGBTパワーチップ)、電動モーター、車載ソフトウェアに至るまで約90%の部品を自社グループ内で生産していると言われる
この垂直統合により大量生産時のスケールメリットを最大化し、利益率を確保しながら低価格なEVを投入できている
例えば2023年に約3万ドル(約400万円)とされる平均車両価格でテスラに匹敵する販売台数を達成し、さらに1万ドル以下の大衆EVも発売するなど、「安くて良いEV」で市場を席巻している
これはBYDの垂直統合モデルが生み出すコスト競争力の賜物であり、欧州各社が太刀打ちできない強みと指摘される
技術イノベーションへの投資
BYD経営陣は短期利益より長期の技術開発を優先する姿勢を一貫して示している
前述の通り、毎年のように純利益を上回る研究開発費を投入し、電動化や電池のコア技術を自前で磨いてきた。王氏自身「EVのボトルネックは電池だ」と公言、1990年代から電池性能の革新に注力してきた
その成果であるブレードバッテリーやDM-iハイブリッド、最新のSiCパワー半導体搭載プラットフォームなど、数多くの特許と技術資産がBYDの成長を支えている
本社ロビーに所狭しと並ぶ1,000枚以上の特許額は、3万件超のイノベーションの証とされる
経営陣は「他業種への分散よりも電動モビリティへの集中」を掲げており、宇宙やITなど多分野に手を広げる競合(例えばTeslaの宇宙事業等)とは対照的に、EVと関連領域(電池、エネルギー、交通)に経営資源をフォーカスする方針を取っている
海外市場への積極展開
王CEOは近年「いずれ利益の大半を海外から得る段階が来る」と述べ、海外展開を最重要戦略に位置付けている
国内市場での価格競争が激化する中、欧州・アジア・南米など成長市場でシェア拡大を狙っている
実際、2024年には海外販売が41.7万台に達し前年比2.5倍となり、2025年には80万台超への倍増を目標に掲げている
経営陣の李柯副総裁らの指揮のもと、豪州・東南アジアから欧州・中東・南米までディーラー網を構築し、世界70か国以上でBYD車が販売され始めている
各国政府のEV導入支援策や中国ブランドへの受容性を見極めつつ、適切なモデルを投入する戦略で、市場により「低価格大衆車」から「プレミアムEV」まで展開を変えている点も特徴である
また上述のように現地生産を組み合わせることで関税障壁の克服にも努めており、欧州の高関税にはハンガリー・トルコ工場、東南アジア市場にはタイ工場といった布陣で臨んでいる
海外展開の成功はBYDの持続的成長に不可欠との認識で、経営トップ自ら海外モーターショーに足を運ぶなど(2023年ミュンヘンIAA等)、グローバルブランド確立に力を注いでいる
以上のように、BYDの経営者層は「技術主導・垂直統合・低価格戦略・グローバル展開」をキーワードに一貫した方針を打ち出している
その結果、2020年代半ばに至りBYDはテスラと並ぶ世界有数のEVメーカーに成長した
王伝福氏は「フォードがT型車で自動車を大衆化したように、BYDはEVを大衆化する存在だ」とも評され、まさに21世紀の自動車産業において革命的な役割を果たしつつある